皇帝と呼ばれた魚 ホワイトスタージョン釣行記『前編』(カナダ・チリワック)

皇帝と呼ばれた魚 ホワイトスタージョン釣行記『前編』(カナダ・チリワック)
辺りは薄っすらと明るくなり始め、大河フレザーリバーが朝日に照らしだされた。
川岸に茂る針葉樹の林とその先には薄っすらと見える雪山。
そこから吹き下ろす冷たい風に震えながら、僕は待ち合わせの時間より1時間も前からガイドの到着を待っていた。
時差ボケとワクワク感で遠足前の少年のように昨晩は寝れなかった。美しい朝日が目に染みる。
昨日チリワックに到着した私は、慣れない運転でチリワックから遠出をする気にもなれず、釣行に必要なライセンスを取得する以外は、この小さな街で退屈な時間を過ごした。
バンクーバー国際空港からおっかなびっくりで運転してきたレンタカー。
チリワックという小さな街。一通りのものが揃うが、これといった観光の目玉はない。釣りに集中できるので問題はないのだが….
ホテルから歩いて3分ほどの釣具屋でライセンスを取得。狩猟用品も所狭しと並んでいる。
僕はこの地に、北米最大の淡水魚にして世界最大のチョウザメであるホワイトスタージョンを手にするためにやって来た。
本来であればベストシーズンは6月~9月。今回の釣行は11月初旬と水温が下がり始めるシーズン終盤であった。
時間通りにガイドのロッドがやって来て、手際よく船を川面に浮かべると挨拶もそこそこに「先ずはチャムサーモンを釣りに行くぞ」と出船を促した。
想像以上に立派なボート。1人チャーターには贅沢な感じだった。
『フレザーリバーとホワイトスタージョン』
≪ホワイトスタージョン(Acipenser transmontanus)≫
北米大陸の西海岸の河川に生息するチョウザメの一種。チョウザメと名前が付くが、サメやエイなどの軟骨魚類の仲間ではなく硬骨魚類である。
口は長い吻の根元の4本の髭の後ろに下向きについており、この4本の髭で使って餌を探し、川底の魚類の死骸や卵塊、甲殻類などを好んで食べているようである。その食性の割にはかなり大型化し、最大で全長3m76cmの記録がある北米大陸最大の淡水魚で、約3億年前からその姿を変えていない古代魚の一種でもある。
≪フレザーリバーを遡上するサーモン達≫
此処フレザーリバーには、6種のサーモンが産卵のため遡上する。河口から上流まで何千キロという距離を命を繋ぐため、数か月かけて上流に向かう個体群もあるという。
産卵を終えたサーモン達は大河に亡骸を浮かべ、熊などの動物類、猛禽類、水鳥、そして流された死骸や卵塊はスタージョンの餌となり生態系の礎となっていくのである。
ボートはロッドの操船で上流に10分ほど走り、瀬の脇に泊った。瀬にはサーモンらしき背びれがいくつもみえた。
ロッドは『先ずは俺が釣るからちゃんとみておけ!1投目で釣るから!!』そう言うとフェザージグのウキ釣り仕掛けを瀬の10m程上流に投げ込んだ。
1投目….何も起こらない。
バツの悪そうにロッドは僕の方をちらっと見ると2投目を投げ込んだ。しばらく漂ったウキは見事に沈み、ロッドがあわせた。
水面が水しぶきをあげ激しく乱れ、立派なチャムサーモンの雄が現れた。その後、彼の竿を借りた僕にも数投でチャムサーモンが釣れた。
とても美しく、遡上に伴っての体表に傷が全く入っていない美しい個体ばかりであった。
美しいチャムサーモン達。やはりワニ口(クチ)の雄は無条件に格好良い。
短時間で美しいチャムサーモンを釣った僕は大満足。スタージョンを釣りに行こうとガイドのロッドにせがんだ。
『いや!この上流に少し走ったところにサーモンの産卵場所があるので其処の様子を観に行こう。心配するな。スタージョンは20分もあれば釣れるから!!』そういうとロッドは更に上流に舵を切った。
ボートは勢いよく大河を上る。途中チャムサーモンを狙うフライマンと気さくに手を振りあい挨拶を交わす。そして釣人達が陣取る更に上流にその場所はあった。
川岸に横たわるサーモンの屍。
其の屍をついばむ水鳥や猛禽類。
川岸にはクマの足跡。
そして、浅瀬には傷ついたサーモン達が、最後のひと仕事であるスポーニングを行っている。
まさにこの大河の生態系の縮図のような壮絶で美しい光景がそこにはあった。
多くの釣人もチャムサーモンの遡上を待ち受ける。
大型のチヌークサーモン(キングサーモン)の亡骸も横たわる。
ハクトウワシや水鳥たちがサーモンの屍を啄む
ガイドのロッドの話では2週間前までは熊の姿もみられたらしい。かなり大きな足跡もあった。
傷だらけのチャムサーモン。今まさに最後の仕事を終えようとしている。
僕がこの光景に感動しているのを察したのか、ロッドもとても満足気だ。よく喋るロッドが益々饒舌になる。
『さぁ!スタージョンを釣らせてやる。大概の釣人は数時間で5,6匹釣って満足するんだぜ!腰を痛めないように注意しろよ。』
そう言うとスタージョンのポイントへむけて船を走らせた。魚探には巨大なスタージョンが無数に写り込んだ。
これは凄い!と楽勝モード突入と期待して数時間…..
何も起こらない。
数時間が経ち数匹60cm、70㎝程の皇帝というより皇太子な感じのサイズが釣れたのみ。そして更に数時間が過ぎ、針葉樹の林に向けて日が傾きだした。
一先ず手にした小さなスタージョン。魚探に映し出されていた無数の巨大スタージョンは何処に?
饒舌だったガイドのロッドも黙り込んだ。一言『Bad day….』と呟くのが精一杯な感じであった。
後編に続く。
この釣行の様子は下記のfin-ch channelにてご覧いただけます。
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https://www.youtube.com/watch?v=T0rwOw5f580