皇帝と呼ばれた魚 ホワイトスタージョン釣行記『後編』(カナダ・チリワック)

皇帝と呼ばれた魚 ホワイトスタージョン釣行記『後編』(カナダ・チリワック)
2019年8月に渡航した時の記事です。
『見えてる魚は釣れない』
とはよく言われるが、魚探に映る巨大チョウザメも釣れる気配はなかった。
『数時間もすれば5~6匹の巨大スタージョンがお目見えするぞ!覚悟して腰痛には気を付けろよ!』
と饒舌に話していたガイドのロッドもかなりバツが悪そうに
『BAD DAY…』と呟くのが精一杯。
時間と大河フレザーリバーの澄んだ川の水だけが流れた。
前編はこちらから
時折竿先が曲がり、ドラグが勢いよく鳴るも水面に顔を出すのは1mにも及ばない
小型のホワイトスタージョンが数匹。
無情にも遠くの雪山に日が陰りだそうとしていた・・・
餌はイクラとヤツメウナギの近似種と思われる魚の死骸を使用。
イクラは薄いガーゼ生地で包んで釣り針に結び付ける。
口は長い吻の根元の4本の髭の後ろに下向きについており、この4本の髭で使って餌を探し、川底の魚類の死骸や卵塊、甲殻類などを好んで食べているようである。
口は真下についており川底の餌を吸い込むように食べることに適した形状。
側部にある硬鱗が蝶に似た形状をしており、チョウザメと呼ばれることになったとか。
暗くなるまで1時間と言ったところだろうか。
ガイドのロットも時間を気にして腕時計を覗き込む回数が増えた。
今日は駄目か・・・
諦めかけたその時!!
強烈なドラグ音が冷たい空気と静寂を切り裂いた。
ぎぃぃぃ ぎぃ ぎぃ ぎぃ ぎぃ ぎぃぃぃーーーーーー!!!!
竿に飛びついた私は明らかに先程までのスタージョンとは違う重みと疾走を感じ歓喜した。
喜んだのもつかの間、スタージョンが右に走れば私も船の後方右側に移動、左に走れば左側に移動。かなりの重量と力強さに翻弄された。
その後も20分程やり取りが続き、遂にホワイトスタージョンは水面にその姿を現した。
先程までのサイズとは違い明らかに大きく、そして美しい。
まるで格闘の様なやりとりであった。
183㎝と最大サイズまでは程遠い感じではあったが、最後に釣れた1匹。
最低限の仕事ができ、小太りのジャイアント猪木な感じではあるが、最高のポーズで初日を締めくくった。
『ダぁぁぁぁぁ!』
実はこのスタージョンはスレ掛かりであったのだが・・・
一人ぼっちのチリワックの夜は退屈だ。
夕食はホテル目の前のお店で惣菜を買い込み、寂しく夕食を済ませるといつの間にか眠りについていた。
2日目。
早朝まだ暗いうちに出船場所に車を走らせる。到着と共に薄っすらと明るくなり始めると、フレザーリバーとそれを取り囲む大自然が姿をみせる。
今日も遠くの雪山から強烈に冷たい風が吹き下ろしてくる。
今日は終日大物とのやり取りで暑い1日になることを期待しつつボートに乗り込む。
川を取り囲む樹木は殆ど針葉樹で一層寒々しさを引き立てる。
ガイドのロッドは1匹とはいえ取り敢えずアベレージサイズを釣らせて安堵したのか、朝から饒舌が再開。
余りの寒さに震える私を気にも留めず、サーモンの遡上の事、今までガイドしてきたアングラーの事、話は延々と続いた。
基本は待ちの釣り。
待っている間はこのストーブが頼みの綱。
まさかこの数時間後に故障するとは…
ロッドの話は更に延々と続き気付けば数匹の小型チョウザメが釣れた以外は何事も起こらず昼食となり、そして夕方になろうとしていた。
今日も多くの釣人がチャムサーモンの遡上を狙い川岸に集まり夕方まで釣り続けていた。
一方、私といえば・・・
大物を探して移動しているとアザラシの群れに遭遇。
終了時間が近づき焦り始めた私を冷ややかに眺めている様だ。
間もなく日が暮れる。
『残念だがそろそろ引き上げようか。』
ロッドがつぶやいた。
その言葉を聞いて私も天を仰いだ・・・
まさにその瞬間!!!
竿が大きく曲がりドラグ音がなった!!!
竿を握った私は瞬時に大きな手応えを感じた。
スタージョンとの第2ラウンドの開始である。
巻いては一気に出されるライン。
最期の闘いは中々激しいものになった。
やり取りは20分程に及んだが、遂に最後の皇帝は浅瀬に身体を横たえた。
186㎝のホワイトスタージョン。
今度はしっかり口にフッキングしていた。
第2ラウンドは終了し、最後はスタンハンセンのポーズと共に雄叫びをあげた。
『うィィィィー!!』
シャイな僕がこんな大胆なポーズと雄叫をあげるなんてカナダの大自然とこの美しい巨大魚のせいなのかしら。
当初目標としていた2.5m以上は結局獲れなかったが、この時期にしか観れないフレザーリバーに暮らす美しい生き物と彼らを取り囲む美しい大自然に逢えて大満足。
ロッドとお別れを言い今回の釣行を終えた。
現在、コロナの影響で先がみえない状況ではあるが、いつの日かこの地に舞い戻り、第3ラウンドに挑みたいと思う。