流氷の天使クリオネを追う(北海道・オホーツク海)

流氷の天使クリオネを追う(北海道・オホーツク海)
一面が雪に覆われ、白銀の世界外広がる大地。2019年3月1日夜、羽田から札幌新千歳空港に到着した我々3名を、北海道の友人・斉藤大介氏(以下大ちゃん)が出迎えてくれた。
久しぶりに再会した我々だったが、挨拶もそこそこに網走に向かって出発した。出発から6時間、ハンドルを握っていたのは大ちゃんひとりだけ。東京から来たばかりの私たちは、一面の雪景色にひとしきり感動した後、気絶するように寝落ちしてしまったのだ。。
目的地網走に到着した頃には、朝日が一面の雪や氷を鮮やかに照らし始め、私を含め東京から来た3名は爽やかな目覚めの朝を迎えた。一方大ちゃんは既に不眠不休の運転で衰弱しきっており雪原を照らす朝日が一層眩しかったようで目を細めた。
樹氷。一面の雪景色の中、木の枝まで凍りついた。因みに今回の旅での最低気温はマイナス9度。
今回の目的は、オホーツク海に漂う流氷の隙間に悠々と泳ぐ『流氷の天使クリオネ』の採取である。
クリオネとは、巻貝の仲間であるが成長と共に貝殻を失い、浮遊・遊泳を行うようになる不思議な生物。ギリシャ神話に登場する女神の名前からクリオネと名付けられた。捕食の際におぞましい姿に変わるというバッカルコーンは有名である。
網走の海岸線を車で移動しながら、先ずは流氷を探す。風向きや潮の流れに大きく影響されるため、流氷は沖に流されたり接岸したりとタイミングによって観ることができないことがある。
この日はタイミングが悪く、網走近郊には接岸が目視できなかった。この付近は無理だと判断した大ちゃんは、再び車を走らせて、世界遺産登録地域でもある知床に向かった。その頃にはすっかり日が昇り、酷寒ではあったが野生動物も姿をみせ始めた。
エゾリス(Sciurus vulgaris orientis)北海道の身に生息する固有種。
エゾアカゲラ(D. major japonicus)|全世界に分布するアカゲラの亜種。
タンチョウ(Grus japonensis)|クリオネ採取後に鶴居村にて観察。
オオワシ(Haliaeetus pelagicus)|大型な猛禽類。日本最大の鷲とされる。
キタキツネ(Vulpes vulpes schrencki)|日本では北海道のみに生息するアカギツネの亜種。
知床に到着。こちらは運よく海岸線一面が流氷に覆われていた。僕らは一層衰弱しきった大ちゃんを尻目に東京組は歓喜の雄叫びを上げた。
世界自然遺産である知床の海を覆いつくす一面の流氷。その壮大さに歓喜の声をあげると同時にクリオネ捕獲への期待が高まる。
早速ウェーダーに履き替え流氷の隙間に網を入れる。
超ハードなガサガサ状態。まさに超HGの始まりである。
開始早々、大ちゃんの網にクリオネが入る。僕らにクリオネをみせようと慌てたのか?!疲労困憊の為なのか?!大ちゃんは派手に水中で転び、ウェーダー内にキンキンに冷えた海水が流れ込んでしまって、早々と戦線離脱となった。
東京から来た1名もウェーダーに穴があいていたようで同じく戦線離脱。クリオネ1匹掬っただけでチームの半数が車に避難すると言う非常事態となった。
残された私と加藤氏。かれこれ4時間程流氷の隙間を彷徨いつづけた。流氷の隙間に漂うクリオネのオレンジ色の内臓を目視して掬うという大ちゃんのアドバイスを頼りに、荒行を続けるがこれが中々難しい。寒さに震えながら目を凝らし続ける。
ふと足元に漂うオレンジ色の物体。足元の岩を踏み外しそうになりながらすかさず網を入れる...
『うおぉぉぉぉっ!!俺の!俺のクリちゃんやぁっぁぁ!!』
大海原に私の叫び声が響いた。
その後は流氷の上で座り込み、2匹になったクリオネを眺めながら余裕の笑みを浮かべる。
最期まで流氷の海に浸かり続けた加藤氏。
悪戦苦闘している加藤氏に偉そうに指示を送ること1時間半。見事に加藤氏が3匹目のクリオネを掬った。3匹のクリオネが観察水槽に入った時点で日が陰りはじめたので、今回のクリオネ採取は終了した。
さて、巻貝の一種であるクリオネの味だが、賛否両論。此処は一度味わってみたいと車内で暖をとる2名に内緒で試食会を開催した。
3匹のクリオネ。私と加藤氏がそれぞれ口に運ぶ。1匹は私の娘の御土産となる。
踊り食い。手に乗せたクリオネを口に運ぶ。ツブ貝のような食感の後に広がるオホーツク海の香り。『おいしい!!?』と一瞬思わせておいて、その後に来るトイレの芳香剤のような香り。食べた自分が言うのも申し訳ないが、やはり天使は喰うものじゃない。
加藤氏に至っては微妙な味に顔が既にクリオネの様になっていた。
多少後味の悪い思いをして、流氷の海を後にすることとなった。
今回使用した道具一式。参考になれば良いですが安全にはくれぐれも気を付けていただきたい。
残り一匹のクリオネは、東京の自宅の冷蔵庫で今も元気に泳いでいる。次女のお気に入りのお友達になり
毎朝『おはよう!クリちゃん』
毎晩『お休み!クリちゃん』
を欠かさない。我家は今日も平和である。