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タスマニア島 珍獣「ハリモグラ」を捕まえた

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2016.03.27
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タスマニア島 珍獣「ハリモグラ」を捕まえた

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2016.03.27
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  • 珍獣

平坂 寛

「五感を通じて生物を知る」をモットーに各地で珍生物を捕獲しているライター。
生物の面白さを人々に伝え、深く学ぶきっかけとなる文章を書くことを目指す。

著書:「外来魚のレシピ〜捕って、さばいて、食ってみた〜」「深海魚のレシピ〜釣って、拾って、食ってみた〜」(ともに地人書館)
「喰ったらヤバいいきもの」(主婦と生活社)

タスマニアンキングクラブを捕まえるために、オーストラリアはタスマニア島を訪れた折の話である。
空港から港町を目指す道中、旅程をコーディネートしてくれる日本人ガイドにタスマニアの動物、特に哺乳類について質問を繰り返していた。
彼が言うには、タスマニアではポッサム、ワラビー、ウォンバットなどの有袋類が多く見られるという。

image10
緑豊かなタスマニアの牧場地帯
有袋類も興味深いが、彼らよりもずっと見てみたいと思っている獣がいた。
単孔類。ハリモグラ類とカモノハシのみで構成される「卵生の」哺乳類である。
動物界のイレギュラー。珍獣の中の珍獣。図鑑の中でしか見たことのない生き物。
まあ無理だろうが、機会に恵まれればぜひ野生の個体をこの目で見てみたいものだとぼんやり願っていた。

image06
そんなのどかな道を走っているときに、それは現れた。

「ハリモグラやカモノハシには、そう簡単に遭遇できませんよね?」
出会える可能性はとても低いだろうが、一応尋ねてみる

「いや、カモノハシは簡単じゃないかもしれないけど、ハリモグラはいっぱいいますよ?森や草原が近くにあれば、どこにでも普通にいます。よく道路を歩いてます。」
いや。ウソだろ。さすがに。

「今日も見られるかもしれないですよ。」
いやいやいや。そんなこと言うと期待しちゃうからやめて、もう。
そんなやり取りをしながら牧場地帯を走っていた、まさにその時である。
道端にマスクメロン大の茶色い毛玉が落ちているのに気がついた。
image02

あれ?もしかして?
急いで車を毛玉の元へUターンさせてもらう。

image09

車窓から数メートル先に見えるその毛玉。ある種のキノコのように芝生へ鎮座するそれには、太い棘が疎らに、しかし整然と並んで生えている。栗のイガとハリセンボンが合体したような姿。
謎の物体、としか呼びようのない佇まいである。が、その「謎の物体」の正体を、ずっと昔から僕は知っているのだ。疑いようもなく、それは明らかに、ハリモグラだった。
なんとタイムリーな遭遇。たくさんいるというのはどうやら本当らしい。

image03

 

ドアを開け放って、弾丸のように飛び出す。
毛玉を両手で掴む。棘が手のひらに食い込む。痛い。すごく痛い。反射的に手が引っこみそうになるが、狩猟本能という名の理性でその衝動を抑える。絶対逃がさない!これを捕まえられるなら、手が穴だらけになることなど大した問題ではない。
地面から持ち上げようと背筋に力を込める。
image00

――2秒ほど、状況を飲み込めずにいた。
体重1キロそこらであろう毛玉を、大の男が持ち上げられないのだ。ビクともしないのだ。
その抵抗は金塊を掴み上げるような、純粋な質量を感じるものではなく、むしろ「大きなカブ」を引き抜く時のような、土との摩擦による独特の粘度を伴うものであった。

「こいつ、踏ん張ってる⁉︎」

毛玉の下面がどうなっているか、この体勢では見てとることができない。
だが、おおよその予想はつく。ハリモグラはその名の通り、モグラのように強大な足を4つ備えていると聞く。それらを土中に突き立て、地球にしがみついているのだ。
そのグリップ力、ホールド力は凄まじいものだった。両手を棘の痛みから庇いながらでは、勝ち目が薄いと判断した。
防寒目的で羽織っていたレインウェアを脱ぎ、三つ折りに畳む。
熱々のコロッケをナプキンで包み掴むように、ハリモグラへ被せる。
腰を落とし、両手を握りこむと、無数の棘が防水透湿素材の生地を貫く感覚が伝わってきた。あ、ヤバい。買ったばっかりなのに。

image08
ハリモグラとともに大量の土と草の根が引っこ抜けた

背筋と大腿筋へ徐々に力を込めていく。なにやらメリメリ、ブチブチと繊維が引きちぎれる音が聞こえ始める。あ、レインウェア破れたかな?買ったばっかりなのに。
次の瞬間、ブツン!という衝撃とともに、毛玉は大地からの助力を失った。
…勝った。
レインウェアの内側には大量の土と芝生を抱え込んだハリモグラがいた。繊維を引きちぎるような断裂音はウェアが裂ける音ではなく、草の根を土ごと毟り取る際のそれだったのだ。

image07
なんだその恰好は!なんだその目は!かわいすぎるだろうが!

土と草を払うと、太く長い爪の生えた短い脚が露わになる。
モグラのそれを彷彿とさせる大きく広がったシルエット。ハリモグラもやはり頻繁に土を掘る生活を送るというから、似たような形態を獲得するのは必然なのだろう。

だが、ハリモグラはモグラと違って定住するための「巣穴」を掘るわけではない。
地表で外敵に襲われた場合などに、一時的なシェルターとしての穴を掘る程度なのだそうだ。
先ほど地面に張り付いていたのは、地中に潜る過程での一コマだったのだと考えられる。だが、あのように潜行が遅れても、背中が棘だらけなら外敵は迂闊に手出しできないだろう。タスマニアンデビルも、今は亡きフクロオオカミも。
まごまごしているうちに、徐々にハリモグラは地中へ埋まっていくはずだ。
そう考えると、あのトゲは鉄壁の鎧というより、一時的な防衛策、時間稼ぎの小細工として機能しているのかもしれない。…今回は力技で僕が勝利を収めたけどね。

image01
かわいい顔に不釣り合いな脚と爪
そして、その雄々しい爪に反して可愛らしい顔。冗談みたいにキュート。嘘みたいにプリティー。
絵本や漫画のキャラクターのような、簡潔に記号化された顔立ちである。
眼はさほど大きくもないが、モグラのように極端に小さく退化しているわけでもない。
これも、やはりハリモグラが決して地中を主たる生活の場とはしておらず、あくまで地表での活動を前提とした生態を持っていることを示している。
実際、彼らの主食は地中のミミズではなく、朽木中などに生息するシロアリである。日中(暑い季節には夜間)それらを求めて地表を徘徊し、その巣をあの爪で掘削して捕食に至るのだという。
共通点はたしかにあるが、モグラとは似ているようでかなり異なる生活様式を有しているのだ。

image12
ハリモグラは皮膚下にある筋肉(皮筋)が全身を覆うように発達しており、それを駆使して球状に丸まることができる。写真はその過程でうっかり手を巻きこまれてしまったところ。驚くほど強い力で締め上げられ、なかなか解放してもらえなかった。
独特の面ざしのキーポイントである細長い口吻と、その先に開く極端なおちょぼ口や細長い舌も、シロアリの捕食に特化したものなのだろう。アリクイのそれとよく似ている。
こうして見ると、ハリモグラはモグラとハリネズミとアリクイの外見的特徴を併せ持っているということになる。
しかも、卵生で育児嚢まで持っている。これに並ぶ珍獣となると、それこそカモノハシくらいしか候補が無いのではないだろうか。

image11
シロアリ食に特化したハリモグラの頭骨。とても哺乳類のものとは思えない。

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