日本で二例目!? 西表島でウラウチフエダイ(パプアンバス)が釣れちゃった!
日本で二例目!? 西表島でウラウチフエダイ(パプアンバス)が釣れちゃった!
ワクワクな冒険アイランド 西表島
西表島が大好きだ。
1998年に初上陸して以来、何度か行けない年もあったが、釣りをメインに、シュノーケリング、シーカヤック、滝巡りに…と、これまで13回訪れている。
西表島へは、石垣島の離島ターミナルから定期高速船で40分ほど。
シーカヤックも楽しい西表島。海を渡り、川に入り、滝を目指した。
行ったことがない人でも多くの方がご存知であろう、あの特別天然記念物「イリオモテヤマネコ」が生息する島であり、僕も小学生のときにTVの動物番組でこの島のことを知り、憧れ、イリオモテフリークとなった。
幼少時より動物好き、自然好きの僕の目に飛び込んできた映像、それはとても刺激的であり、男の子心をワクワクさせ、冒険スピリッツを膨らませてくれた。
島いちばんの人気探検スポット、ピナイサーラの滝の上で。僕の後ろは絶壁で、ドーーーン!と滝が落ちている。
「わわわっ、日本なのにジャングルに包まれているよ!」
サンゴのかけらが堆積してできた島、バラス島にてシュノーケリング。家族で出かけたとき、娘といっしょに。
シュノーケリングで見つけたクマノミ。
「ビックリしちゃうくらい青くてきれいな海に、サンゴ礁だなぁ!(その当時、僕は海無し県の埼玉県に住んでいた)」
朝散歩のあとで発見!宿泊していた宿の庭に現われた天然記念物のヤエヤマセマルハコガメ。
「セマルハコガメ、ミナミコメツキガニ、リュウキュウイノシシ…、すごーい!!」ミナミコメツキガニ。潮が引いた干潟をのぞくと大きな群れで歩き回っているのを見ることができる。その様子はまるで地面が動いているよう!
毎年11月中旬くらいになるとリュウキュウイノシシの猟が解禁となる。
猟期には島内の食堂でも汁やチャンプルーなどのメニューが登場する。
新鮮な肉が手に入れば刺身がおいしい!
ちょっと水温が冷たいけれど、川でのシュノーケリングも楽しい。オオクチユゴイやテナガエビの姿を見つけることができる。
ウラウチフエダイとは
ところで、この西表島には、イリオモテヤマネコよりも遭遇率が低い、つまり目にすることが難しいであろう、マボロシ級の生物が存在することをご存知だろうか。
その名はウラウチフエダイ(学名: Lutjanus goldiei 、英名は:Papuan black snapper、あるいは釣り人の間ではパプアンバスとも)。
インドネシアで釣り上げられたウラウチフエダイ。(インドネシア ハルマヘラ島に「世界最強の淡水魚」パプアンバスを求めて より)
西太平洋の限られた地域だけに生息することで知られているが、1992年に西表島の浦内川でも生息していることが確認された(和名の「ウラウチ」はこの川の名に由来)、スズキ目フエダイ科に属する魚の1種だ。
橋の上から眺めた浦内川。沖縄県下最大の川であり、上流には日本の滝100選にも選ばれた「マリユドゥの滝」がある。
だが、「パプアンバス」と呼ばれ、パプアニューギニアなどではゲームフィッシングの対象魚として高い人気を誇り、多くの大物狙いのアングラーたちに釣り上げられているこの魚も、西表島での生息個体数はかなり少ないようだ。
島内最大の川である浦内川にいることはわかっていても、潜って簡単に見つけられるものではなく、環境省のレッドリストで、絶滅危惧種(IA類:ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)にも指定されている希少種である。浦内川と観光船。その個体数は少ないが、この流れのどこかにウラウチフエダイが潜んでいる。
釣りにおいての記録を調べてみた。
エキスパートアングラー鈴木文雄氏のコラムによれば、氏の友人が浦内川上流部で1990年に釣ったのが初めてであり、さらに西表島の老舗釣りガイドサービス・マリンボックスの宮城氏に聞いてみれば、氏の知る限りではそれ以降釣り上げられたという報告はないとのことである。島の老舗釣りガイドサービスマリンボックスの宮城和雄氏。島での釣りのことなら何でも相談に乗ってくれる。レストランも経営しており、ミーバイ(ハタ)唐揚げのあんかけは絶品!!
実に20数年以上、誰かの投げ込んだ釣り針にかかったことがないわけなのだ(もちろん、報告されていない例があるかもれないが)。
そ、そ、そんなレアな魚なのであるが、2016年の5月、この僕が釣り上げてしまったのである。
たまたま入った浦内川で…
2016年5月27日(金曜日)。
この日僕は、初訪島の時からなじみであるマリンボックスさんとの釣りの2日目を迎えていた。
西表島で僕がいつも楽しむのは、マングローブリバーでのルアー釣りだ。マングローブリバーの釣りでは、バスフィッシングで使う道具をそのまま使っている。僕は今回このロッドとリール、ルアーでウラウチフエダイを釣った。
島の9割が亜熱帯の原生林に覆われたこの島には約40本もの川が流れているが、淡水と海水が混じり合う河口の汽水域両岸は、いわゆるマングローブ植物と呼ばれるヤエヤマヒルギなどの樹木林が延々と広がっている。
島を流れる川の河口域には、このようなマングローブ林が生い茂り、その根元周辺は魚たちの絶好の隠れ場所となっている。
潮の上げたタイミングには、タコの足のように枝分かれした根は水没し、その周りは魚たちの格好の隠れ場所となる。
つまりは、釣りのポイントとなるので、カヌーや小型ボートでこうした川を上ったり下ったりしながら、ゴマフエダイやナンヨウチヌ、ときにはこれまた日本では西表島にしか生息していないテッポウウオなどを狙っていくのが面白い。こちらはウラウチフエダイによく似ているがゴマフエダイ。マングローブジャックとも呼ばれ、西表島マングローブリバーの釣りでの主役的釣魚。
ゴマフエダイと並んでよく釣れるのがナンヨウチヌ。本土のクロダイに近い種類だ。
ほかにもミナミマゴチ、オニカマス、ホシマダラハゼ、イセゴイ…とさまざまな魚が登場する(この辺りの釣りのことは、また改めて記事に書きたい)。釣り初日の仲間川で。午前中、全然釣れなかったので11時くらいに早めのランチ。潮が動き出した午後から魚の反応が出始め、よい釣りができた。
初日は、2年前の5月にとてもいい思いをした「仲間川」という島西部の川を希望して釣りをしたが、2日目は東部の「浦内川」に入った。
たまたまの選択であった。
初日の帰り道、「明日はガイドさんのお勧めでいいですよ~」とのんきなリクエストをしたところ、「潮の満ち引きが大きな日なので、うんと潮が下げた時間帯も釣りになるのは…浦内川ですね」と、この川が選ばれたのだ。釣りの途中で見つけたサキシマスオウノキ。「板根」とよばれる、独特な形状の根が特徴だ。
5月下旬というと、本来沖縄地方は梅雨のまっただ中でなのであるが、前日に続き天気は晴れ。空には濃い青が広がっていた。
「僕は晴れ男なのかなぁ。ふふふのふんふん♪」マングローブリバーでの釣りは、岸際スレスレにルアーを投げ込んでいく。コントロールが重要なので、ちょっと練習が必要だ。
電動のモーターをとりつけたカナディアンカヌーで、岸にそって静かに移動しながらポイントを打っていく。
釣りをしつつ周りの気配をうかがってみると、繁殖期を前に求愛のさえずりか。
「ピヒョロロロロー」という軽やかで美しいアカショウビンの鳴き声が川面にこだましていた。
釣り始めてから1時間以上も釣れないでいたが、前日も後半になってから調子が良くなってきたので、あまり気にしていなかった。
強烈な日射しが照りつける中、クーラーボックスに冷やしておいたファンタグレープがたまらなくおいしかった。
マングローブリバーの釣りで使ったルアーたち。まるでオモチャのようでしょ!? こんな愉快な連中で魚が釣れちゃうのだから面白い。
それは突然襲いかかってきた
あるポイントにさしかかったそのとき、
僕はポッパーというタイプのルアーを投げていた。
水面に浮かび、ちょんちょんとアクションを入れると、頭のカップ状になった部分が水を受け、ポショッポショッと水しぶきを上げ、逃げ惑ったり、弱ってフラフラしてているような小魚の姿を演出することができる。
この釣りで定番のゴマフエダイやナンヨウチヌは、マングローブの根や岩の陰に隠れている。
そのため、岸際に放り込んだあとは1~2メートルくらい動かして食い付いてこなければ、もう誘ってもヒットの可能性は低いなと、巻き戻して次の動作に移るのだが、その巻き戻している途中、それは突然襲いかかってきた!
まったく予想していなかった。
闘志マンマン、緊張ピリピリとは正反対な、暑さとノーヒット状態でややダレダレ、脳内ボヨヨンなタイミングに、
「バボーーーンッッ!!」
カヌーの縁からは2メートルも離れていなかった。
水面を小走りするように手元へと戻ってきたルアーは、突如爆発したかのような激しい水しぶきを上げたかと思うと、次の瞬間、モノすごい力とともに、水中へと引きずり込まれた。突然のヒット!ものすごいパワーの突っ込みに、ロッドが水中に引きずり込まれそうになった。
「ななな、なんだ~~~っ!!」
だが、そこは一応、釣り経験者だ。とっさに僕の体は反応し、その突っ込みに対しロッドを立て「アワセ」を加えた!
グリップとのつなぎ目あたりからであろうか、「ミシッ!」とロッドがきしむ音がしたのをハッキリと覚えている。
なんだかとんでもない大物がかかったようだ。
「ギュギュギュギュビーーーーンッ!!」
とラインがうなった。
リールを巻き、相手を浮上させようと試みるのだが、少し寄ってきたかと思うとまたラインは伸ばされ引きずり込まれ…を繰り返した。
「でかい、でかい、でかい…」
やり取りをしながら、ラインの先の相手のことを想像した。
過去の経験では、沖縄地方では「ガーラ」と呼ばれるオニヒラアジやカスミアジのような魚の50~60センチクラスが、回収で巻き取り中のルアーにかかったことが数度あったのでそのあたりかと思ったが、なんだか走り方が違った。
それではゴマフエダイの大物であろうか?
カヌーの下へ、下へとグイグイ潜り込んでいく重く強い“のし”をこらえ、かわした。
岸際のマングローブの根からは離れた位置でのヒットではあったが、底に沈む岩に巻かれラインをこすられて切られるのが怖かった。
ガイドの宮城さんがカヌーをスーっと下げてくれたタイミングにあわせ、僕は思いきってリールを巻き、魚を水面へと浮かせた。グワワ、グワンッと抵抗しながらも、だいぶ疲れてきたか?
水中の相手は徐々にこちらへと近づいてきた…。
水中でユラ~っと踊った魚体の色合いを見て、震えを感じた。ゴマフエダイなら赤みを帯びた体色が水面下ではっきりと輝くからだ。それが…、
「青黒い…。なんだ、まさか…」
その瞬間、僕の頭の中に、自分が今釣りをしている川には「マボロシ級」にレアな魚が生息しているのだということが思い出された。
宮城さんが差し込んだネットは見事一発でその魚をすくいあげてくれた。と同時に、暴れた魚の口元からルアーが外れた。掬い上げた途端にルアーのフックが外れたが、無事にキャッチ!
「うわっ、危なかったぁ~~~~っ」
フックのかえしは潰してあったのだ。
水中から外に出た魚体は赤っぽさを放っていたが、ゴマフエダイよりももっと黒ずんだ感じで、体側には幅広のストライプが浮かび上がっていた。
いちばん違うなと感じたのが、背ビレや尾ビレの端が鮮やかな黄色に輝いていることだった。
「違いますね、これはゴマフエじゃない。時川さん…大変なものを釣っちゃいましたね。」
とても静かに、極々ふつうのトーンで宮城さんが僕に声をかけてくれた。
驚きが大きすぎた時は、大騒ぎしてしまうというよりも、むしろ沈黙してしまうのかもしれない。一体何が起きたんだ!という頭の中の混乱を落ち着けようと、特別な精神安定成分が体内を駆け巡るのだろう。
今でもしっかりと覚えているが、何度もつぶやいた僕のセリフが振り返ると可笑しい。
「あは~、ちょっとうれしいですね♪」
おいおい!ちょっとどころじゃないでしょ(笑)!!いわゆる「釣った」ではなく、思いっきり「釣れちゃった」的な魚。僕はいつもこんなハプニングのような釣果を「ふふふ」と楽しんでいるけれど、これまでの釣り人生で最大級のそれとなった。
西表島のパプアンバス。ウラウチフエダイであった。
20数年間、誰にも釣り上げられることのなかったレア中のレアな魚をこの僕が釣った…。いや、正確に言うと、
「釣れちゃった!」弱らせないようにと急いで体長を計ってみた。メジャーをあててみると…体が曲がったりしていたので正確さに欠けると思うけれど、だいたい50センチってとこかな。最大級となると1メートル、20キロオーバーにもなるそうだ。
狙って釣ろうなんて気持ちは全くなかった。
「東洋のガラパゴスにウラウチフエダイを求めて…」とか、「西表島に幻のパプアンバスを追え!」なんて目標を立て、作戦を練り、瞳に炎を燃え上がらせ、挑んだわけではない。標本用にキープすることも、食べることもせず、川の中に戻した。これからもマボロシの存在でいた方がロマンが感じられるんじゃないかと思って。
いることは知っていたが、のんきでへっぽこ釣り師な僕には無縁の魚だろう、
そのうちスゴ腕のハンターのような釣り師が、徹底した装備と攻略の上で仕留めるんだろうなぁなんて思っていた。
それが、こんな僕がねぇ。ああ、ゴメンナサイ。あやまらなくてもいいか(笑)。いちおう、ガッツポーズしちゃおうかな(僕のぎこちない動きを、宮城さんが撮っていてくれました)。
そもそも、僕は釣りは大好きなのだけど、○○の記録を狙ってとか、うんといっぱい釣るぞ~とかいった気持ちを、強く抱いて臨むことがない。僕にとって、釣りは最高のリラックスタイム。景色も良くて静かな、過ごして気持ちいいなと感じられる水辺に出ることがまず第一なのだ。
そのなかで、そこそこいい釣りができたらシアワセなんだよなぁ(笑)。ウラウチフエダイを釣ったその晩、釣りガイド宮城さんのレストラン「ROCO」にて、島の友人たちと合流し乾杯!格別な味わいのビールとなった。
アカジン(スジアラ)のあんかけ。美味い島魚も八重山の魅力。
この日も、「ゴマフエダイの大きいのが出たらうれしいな」くらいの気分で、カヌーの先端に腰掛け、ロッドを振っていた。
そのロッドも特別なものではない。15年以上前から愛用している4本継ぎのブラックバス用ロッド。リールなんて中古で買った80年代モノだった。
ロッドもライト級なものであったけれど、ルアーのフックも、対大物を意識してつけかえなどはしておらず、もともとついていた細めのものだ(あとで見ると伸ばされていた…)。
釣り人の間でパプアンバスは「淡水魚最強」と称されるようなパワフルフィッシュなのだが、こんな道具立てで釣れちゃったとは。
いやいやいや、笑える!宿のすぐそばの食堂で野菜そば。もやしがシャキシャキとおいしい。暑い中、まる1日釣りをしたあとのヨレヨレな体に、スープの塩っ気、旨味が染み渡る。
楽しいなぁ、大好きだよと、何度も遊びにきている西表島。
そんな僕を島の神様が見ていてくれて、今回のウラウチフエダイはご褒美に出逢わせてくれたのかもしれない。ありがたく受け止めたいと思う。
それにしても、まだまだなにが起こるかわからないのが西表島。
ガイドの宮城さんからは国内未確認の大型ハタが一度釣れたことがあるが、リリースしたので新種かどうか、いま一度釣って確かめたいという話を聞かされたし、オーストラリアで人気の釣魚「バラマンディ」も潜んでいるようだという情報もいただいた。
また、僕も島内のビーチで目撃したことがあるのだが、フライフィッシングの世界では有名なボーンフィッシュも生息しており、もし釣り上げたら大ニュースだ。
これからも、夢いっぱいのこの島に、僕は通っていくことだろう。
お気に入りの釣り道具をザックに詰め、なにか愉快なことが起きたら楽しいなという思いを、“ユルく”抱きつつ。カヌーから眺めたジャングルと空。これからも何度となく、僕はこの景色を見に来るのだろう。