熱帯雨林の宝石『ヤドクガエル』を探す(中米コスタリカ)

熱帯雨林の宝石『ヤドクガエル』を探す(中米コスタリカ)
僕らは、鬱陶しく全身を伝う雨の中、コスタリカのジャングルを歩き続けていた。
3時間ほど経過したと思うが、依然として雨が止みそうな気配はない。
虫の声、雨の音、そして鬱蒼(うっそう)と生い茂る樹木の音、さまざまな生命の音が重なり合い、僕らが歩き続けているジャングルに響き渡っている。
僕らは、その合唱にも似た音の中から、カエルの囀(さえず)りを聴き分けるために、聴覚を研ぎ澄まし、足元や草木の上など、あらゆる場所にライトをあてカエルの姿を探した。
コスタリカ最初の目的は、熱帯雨林の宝石と言われるヤドクガエルである。
ヤドクガエルとは
ヤドクガエルとは、中米から南米に渡って広く生息し、ヤドクガエル科に属す200種程から構成される。
カエルの中でも小型な種が多く、彼らは色鮮やかな種が多いが、これは警戒色で外敵に毒があることを知らせ、同時に身を守っているのだが、実際に彼らの体内には、アルカロイド系の神経毒でバトラ子トキシン、ヒストリオニコトキシン、プミリオトキシン等の強い毒を保有している。これらの毒は彼らが食する蟻・ダニ等の昆虫から得ており、体内に蓄積されることにより毒素が強められている。その強い毒を用いて原住民たちが吹矢や毒矢に塗り狩猟などに用いた事に名前が由来していることも有名である。
~熱帯雨林の生物たち~
更にジャングルの奥へと歩き続ける。
そこは、僕にとっての楽園が広がっていた。
多くの昆虫や爬虫類が歓迎してくれているかのように、その美しい姿を魅せてくれてていたのだ。
中には日本でもみることができそうな昆虫も現れたが、ジャングルが醸し出す独特の雰囲気が、その姿を一層美しく引き立たせていた。
フクロウチョウ属(Caligo telamonius)。Owl butterflyとも呼ばれ、羽の大きな斑点がフクロウの目のようで非常に美しい。
ヌムシタケ属。冬虫夏草の一種で昆虫などに寄生する菌の一種。もはや此処まで育つと宿主が同定できず。
世界三大奇虫の一つウデムシ(Pholcidae)。クモの仲間として分類され、昆虫食である。
バシリスク(Basiliscus)。イグアナ科に属し短時間ではあるが水上走行ができることは有名である。
アノール属(Anolis Polylepis)。コスタリカ全域に生息し、最大60㎝程に成長する。
スベヒタイヘルメットイグアナ(Corytophanes cristatus)。樹上性のイグアナの仲間。
しかし、私が探し求めている宝石はなかなか現れてくれない。
次第に強くなる雨に打たれ、今夜は引き返そうと諦めかけた時・・・
とても小さくて美しく、光り輝く宝石を見つけた。
アラハダヤドクガエル(Dendrodates granuliferus)
最初に現れたアラハダヤドクガエル。コスタリカの南東部の極限られた生息地のみに生息する。
大きさは平均23㎜程。毒性は微弱。まさに熱帯雨林に輝く宝石。
生息地により胴体から頭にかけての赤の部分がオリーブグリーン、黄色、そしてオレンジの個体群、いわゆる色彩変異型が存在する。
翌日からも深夜の宝石探しは続き、更に下記3種のヤドクガエル科のカエルに逢うことができた。いずれの種も個性が強く、とても自然のものとは思えない色彩がジャングルの中で光り輝いているようであった。
マダラヤドクガエル(Dendrodates auratus)
雄の大きさ平均40㎜、雌は42㎜程でコスタリカのヤドクガエルでは比較的大型種。
コスタリカ国内では東部と南部に広く生息する。またハワイ・オワフ島にもパイナップル畑の害虫駆除のため人為的移入されている。
縄張り意識が非常に強く、雄雌に関わらず同性同士で取っ組み合いを行い、自分のテリトリーから同性を追い出そうとさえする。産卵後は雄が継続的に卵を守り、孵化後は雄が木のくぼみ、葉の間にできた水たまりなどに背負って運ぶ。
コスタリカでは比較的観ることが容易い種。夜明けから午前中に活動的に捕食も含め活動を行う。今回はジャングル以外でもホテルの敷地などでも観察できた。
キスジフキヤガエル(Phyllobates vittatus)
フキヤガエルはヤドクガエルに比べ強毒性の種が多いとされるが、本種は弱毒性である。
コスタリカでは南西部に生息する。
葉の上に7~20個の産卵を行い、その後は雄が度々産卵場所に訪れ、尿をかけることによって卵の乾燥を防ぐという育児行為を行う。そして孵化後も雄がオタマジャクシを背中に乗せ水場に運んでいくという。
背中の両脇に色ずくオレンジ色が黄色い筋の様に見えることから名付けられたようだ。
イチゴヤドクガエル(Dendrobates pumilio)
大きさは平均24㎜程。コスタリカのヤドクガエルの代表格。四肢が鮮やかな藍色をしており恰もジーパンを穿いている様でblue jeansとの愛称も持つ。
生息地はコスタリカ、ニカラグア、パナマ東部。特にパナマにおいては多くの色彩変異型が存在し、イチゴヤドクガエルと見分けるのも困難な程である。
コスタリカの東部に広く生息し個体数も非常に多い。安易に観察できる。
イチゴヤドクガエルは産卵後に雄雌揃って卵を守る。孵化後オタマジャクシは雌により木のくぼみに等にできた水場(アナナス)に運ばれる。その後、雌は毎日オタマジャクシのもとに戻り、無精卵を産み、オタマジャクシに食べさせるという給餌行為までも行う。
彼らの毒性を引き立たせる警戒色は熱帯雨林の宝石に恥じず、美しくそして怪しく輝いていた。
これほど美しく輝き、そして毒性を持たない生物を妻以外に私は知らない…..
この絞めの言葉を妻にみせた後に、次の冒険の予定を彼女に話そうと思う。