美しき甲虫フェモラータオオモモブトハムシの幼虫を食べてみた(愛知県)

美しき甲虫フェモラータオオモモブトハムシの幼虫を食べてみた(愛知県)
人類は恐るべきスピードで進化を遂げ、文明社会を築き上げた。
そして近年では世界はボーダレス化が進み、人類はいとも簡単に国境を行き来するようになった。
しかし、国境を越えて行き来することになったのは人類だけではなかった…..
現在日本国内に生息する外来生物は2000種を超えていると言われており、同時に日本国内の生物も海外に渡って大繁殖しているケースも見受けられる。池の水を少々抜いたくらいではもう取り返しのつかない状況となっており、外来種が侵入したエリアでは国内在来種への影響が危惧されている。
今回は日本の近畿・中部に生息地を凄まじい勢いで広げている、外来甲虫フェモラータオオモモブトハムシにフォーカスをあてる。
≪フェモラータオオモモブトハムシ(Sagra femorata)とは≫
赤い金属色に輝く体表。まるで宝石の様だ。
成体は6月頃から8月頃の夏場に観ることができる。「オオモモブト」というだけあって立派な後ろ足に目が引く。
これが彼らの主食で産卵場所となる葛。この葛もアメリカ大陸等に外来として渡り凄まじい勢いで繁殖しており生態系に影響を及ぼしているらしい。
三重県で最初に発見されたフェモラータオオモモブトハムシ(以下フェモ)。
現在は中部地方、関西にまで生息圏を広げている。
元々熱帯に生息する甲虫であるが、冬場は彼らの主食である葛の蔓に卵を産み付け、その幼虫は蔓の中で虫こぶ(ゴール)を作り越冬する。
成虫は15㎜~20㎜程の体長で夏場に姿を現すが、金属光沢の赤みの強い美しい体色には目を見張る。尚、体色は日本で多くみられる赤以外に黒、緑、青などがみられる。
≪フェモラータオオモモブトハムシの幼虫は美味しいらしい≫
さて、昆虫食は近年国際的にも関心を集めている。
爆発的に増えた人口に対して不足するタンパク質を確保するために、国連の機関が推奨しているほど。
日本国内においても冬季に不足するタンパク質を確保する為、ざざむしが食されていたり、蜂の子・イナゴなども昔から食されてきた。そして最近ではハリウッドのセレブ達の間でも昆虫は人気食材として扱われているそうだ。
イナゴの佃煮。小エビの佃煮と殆ど変わらない。味は佃煮の味しかしないのだが…
ざざむし。ヘビトンボ・カワゲラ・トビゲラの三種を頂いた。こちらも佃煮。
桜の葉に着くモンクロシャチホコの幼虫。所謂、桜毛虫とよばれる毛虫をけんぴにしたお菓子。ほんのりと桜の香りが漂う中々品のあるお菓子であった。
フェモの幼虫が非常に美味しいと聞きつけた私は、半信半疑で生息地の愛知県のとある河川敷に向かった。葛にできた虫こぶとその中で成長を続けるフェモの幼虫を採取するのが狙い。
念の為、河川敷を監理する役所に葛の一部を採取することを許可いただき、現場に到着した。
なんとも恐ろしいことに河川敷の木に絡みつく葛の蔓は虫こぶだらけ。あっという間に虫こぶの採取は完了した。
冬の河川敷。夏場に生い茂っていた葛も枯れ果てていた。
葉の落ちた木に絡みついた葛の茎。処々に虫こぶ(ゴール)を観ることができる。
採取した虫こぶを割ってみると5~6個の蛹室。
蛹室をそっと破ってみると恥ずかしそうに色白の幼虫がお尻をみせた。
一つの虫こぶからとれたフェモの幼虫。河川敷にはこの虫こぶを無数に見つけることができる。幼虫の大きさは1㎝~2㎝程。
≪華麗なるフェモ料理≫
持ち帰った。虫こぶを丹念にすべてほぐしていく。15個ほどの虫こぶから120匹程の幼虫が出てくるではないか。
流石に昆虫料理で、我が家の調理器具を使い台所を占拠すると、嫁が悲鳴をあげそうだ。
嫁が友人宅へと出掛けるタイミングを見計らい、そっと調理をスタートさせた。
嫁のお気に入りのルクルーゼの器に盛りつける。
【1品目】
フェモのマカロニパスタ。ボイルしたフェモ、マカロニとパプリカをニンニクの香りを加えたオリーブオイルでさっと炒める。塩コショウで味を調え完成。
シンプルで素材の味を楽しめるパスタ…
ビジュアルはまるで魔女の夕食と言ったところであろうか??
【2品目】
フェモの3種食べ比べ。向かって左からフェモのバターソテー、塩茹で、そして素揚げ。
バターソテーと素揚げは、全くクセがない。
6時間かけて良く洗ったフェモを燻製機にかけてみた。
【3品目】
フェモの桜チップ燻製。燻製の香りが強くフェモ自体の風味が消えてしまうのであまりお勧めはしない。
濃厚バニラアイスフェモの素揚げを添えて
【4品目】
穀物っぽいフェモとバニラアイスとの相性がとても良い。女子力があがりそうな一品。
燻製以外の3品は必死のスピードで仕上げ完食した。
嫁が帰宅する頃には跡形もなく片付ける事ができた。
燻製機から黙々と煙は立ち上っていたのだが…
さて、フェモ料理の感想であるが、素材自体は穀物的な風味。
芋とも豆とも近い臭みのない味。特に2品目のバターソテー、は全く癖がない。
総じて優秀な食材であるとの認識を強めた。目をつぶって何も考えず食べれば、貴女でも貴方でもいけるはずです。
しかしながら、食べればハリウッドのセレブになれると言う訳ではないことは、追記しておく。
今回美味しく頂いた、フェモラータオオブトモモハムシ。
その繁殖力は目を見張るものがあり、今後も日本の気候に適応し、その生息域を広げ、個体数を増やしていくであろう。その過程で、葛以外の豆科の農作物への影響も、出てくるのではないだろうか。
外来種問題は、非常にナイーブな難しい問題である。外来種が何故やって来たのか?
根本の原因を解消しない限り、中途半端な駆除では解決しない。
そして、一旦彼らがその土地の風土に適応するとその繁殖力で爆発的に増えていく。
もう外来種との共生を一考していく時代なのかもしれない。